【書評】貧困のない世界を創る[貧困は博物館に]

【書評】貧困のない世界を創る[貧困は博物館に]
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どうもタスです。

恵まれない子に募金を。食べられない子がいるから残さず食べること。家に住めるだけでも幸せなこと。自分たちの気持ちを戒めるために、左のようなことを子供の頃に言われた。

それは裏を返せば、恵まれない子がいること。食べられない子がいること。家に住めない人もいること。を暗示している。いわゆる「貧困」ということだ。今回読了した本書は、貧困と戦う著者の武器ともいえる概念について具体例を用いて知ることができる。

それはすでに活動しており、ノーベル平和賞受賞がその証左となっている。そこで今回は、読書習慣を始めて51冊目の本として「貧困のない世界を創る ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義(早川書房)」を読了したのでお伝えする。

 

著者のご紹介

ムハマド・ユヌス
1940年、バングラデシュ・チッタゴン生まれ。チッタゴン・カレッジ、ダッカ大学を卒業後、チッタゴン・カレッジの経済学講師を経て、米ヴァンダービルド大学で経済学博士号を取得。1972年に帰国後、政府経済局計画委員会副委員長、チッタゴン大学経済学部学部長を務めて教鞭を執るが、1974年の大飢饉後に貧しい人々の窮状を目の当たりにして以来、その救済活動に目覚め、1983年にはグラミン銀行を創設。マイクロクレジット(無担保少額融資)で農村部の貧しい人々の自立を支援する手法を全国で展開し、同国の貧困軽減に大きく貢献した。これが多くの国際機関やNGOなどの支援活動の規範となり、現在では全世界で1億人以上がマイクロクレジットの恩恵を受けているといわれている。

 

目次

プロローグ 始まりは握手から
第一部 ソーシャル・ビジネスの約束
 1 新しい業種
 2 ソーシャル・ビジネス –それはどのようなおのなのか
第二部 グラミンの実験
 3 マイクロクレジット革命
 4 マイクロクレジットからソーシャル・ビジネスへ
 5 貧困との闘い –バングラデシュ、そしてさらに遠くへ
 6 神は細部に宿る
 7 カップ一杯のヨーグルトが世界を救う
第三部 貧困のない世界
 8 広がりゆく市場
 9 情報技術、グローバル化、そして変容した世界
 10 繁栄の危険
 11 貧困は博物館へ
エピローグ 貧困は平和への脅威である
訳者あとがき

 

世界の貧困の惨状

【書評】貧困のない世界を創る[貧困は博物館に]

著者は経済学者であり教育者である。しかし、1974~75年にかけてのバングラデシュ飢饉による荒廃を目の当たりにして、大学の教室でエレガントな経済理論や自由市場のほぼ完璧な作用といったものを教えることが、次第に難しくなったというのである。それは、著者の周りには貧困が溢れており、そこから顔を背けることができなかったからだ。

そこから貧困と戦うために、ノーベール平和賞受賞の選定理由ともなるグラミー銀行立ち上げに至るのである。世界の総所得の94%は、40%の人々にしか生き渡らず、残りの60%の人々は世界の総所得のわずか6%で生活しなければならない。世界の人口の半分は1日当たり2ドル以下のお金で生活しており、およそ10億人が1日当たり1ドル未満で生活しているのだ。

本書発行から10年ほど経過しているため、状況は改善に向かっていると予想できるが、それでも左の惨状は目も当てられない事実なのである。

 

ソーシャル・ビジネスの目的とは

【書評】貧困のない世界を創る[貧困は博物館に]

本書の副題にもなっている「ソーシャル・ビジネス」は、「貧困は博物館へ」の信条を基に著者が創成した新しい概念である。それは資本主義でもなければ、NPOやNGO、慈善団体でもない、ましてや、資本主義に紛れ込んだCSR(企業の社会的責任)とは全く異なる考え方である。

資本主義は完全なる利益追求である。それは構造がそのためで、配当受益を目的に存在価値があるためである。もちろん、環境問題やCSR、労働者、製品品質、公正貿易など利益以外の責任を果たすことを嫌っているとは思えない。けれど、目的が利益の最大化である以上、社会的責任は二の次になるのである。

ソーシャル・ビジネスは資本主義とは異なる大きな特徴がある。それは、「損失も配当もないビジネス」である。ソーシャル・ビジネスは利益の最大化が目的ではなく、社会的利益の最大化を目指す。余剰金は配当等で投資家には渡らず、企業に再配当される。利益は社会的目標達成の最大化のために使われるのである。

人間は利益追求の一次元的な生物ではない。政治的、感情的、社会的、精神的、環境的など多次元的に社会貢献を考える生き物である。ソーシャル・ビジネスは以下のように語られている。

ソーシャル・ビジネスは、資本主義システムの「失われた断片(ミッシング・ピース)」である。ソーシャル・ビジネスのシステムを導入していくことにより、現在主流となっているビジネスの考え方の外に残された非常に大きな世界的問題に取り組む力が資本主義に備わり、そのシステムを救うかもしれない。

 

ダノンとソーシャル・ビジネス

【書評】貧困のない世界を創る[貧困は博物館に]

著者はバングラデシュにソーシャル・ビジネスをいくつも立ち上げている。銀行、食品、農業、製品(織物、手工芸など)、漁業及び畜産、エネルギー、福祉、教育、ICT、投資、基金、ヘルスケアと多岐に渡っている。特に有名なのはノーベル賞受賞選定のもととなったグラミン銀行なのだが、本書では食品を扱う「グラミン・ダノン」を大体的に紹介している。

それはフランスの大企業であるダノンが、資産の一部をソーシャル・ビジネスに投資し、且つダノンの全精力を以ってバングラデシュの栄養失調の子供たちにヨーグルトを届ける社会的使命を全うすることが克明に書かれているからである。

第二部はほとんどがグラミン・ダノンについて書かれているが、事業内容の決定から事業開始までとてもスピーディーで一切の妥協がない。ここまでしなくても良いのではないかと思えるほど微に入り細を穿っているのである。内容は読んで頂くとして、その件は休憩なく読み切ることをおススメする。

 

おわりに

貧困は、本国の大体の地域では見ることも滅多にない。それは裕福な国であり、中流階級が多いことも理由の一つである。一方で、1日2ドル、さらには1ドル未満で暮らす人々がいるのも紛れもない事実である。

生まれてこの方、資本主義しか肌身に感じたことがないが、自然と社会的利益を求めるようになっている。環境汚染そっちのけで作ったヨーグルトと、田舎で貧しいながらも頑張って育てた乳牛からとれた牛乳をもとに作ったヨーグルト、この情報のみでどちらのヨーグルトを購入するか選ぶとしたら後者になる。

その理由は、自分達が住む地球を守りたいし、貧しい人を間接的ながらも助けたい気持ちがあるからである。これは社会的利益の支援そのものである。現在、日本にどれだけのソーシャル・ビジネスが起こっているか分からないが、近い将来、必ずソーシャル・ビジネスが隆興することは間違いない。その理由は本書を読んで確かめてほしい。

最後に、著者が考える貧困の存在の理由を紹介して締めくくる。

貧困が存在しているのは、私達が人間の能力を過小評価した哲学的な枠組みを築き上げたからなのだ。私たちが設計した概念は狭すぎる。ビジネスの概念(利益だけが人間の原動力になる)、融資資格の概念(自動的に貧しい人々を排除する)、起業家精神の概念(人々の大部分の創造性を無視する)、雇用の概念(人間を活発な創造者ではなく受け身の容器にする)。そして、私たちはせいぜい半分しか完成していない組織を作り上げた。現在の銀行システムや経済システムは、世界の半分を無視するものだ。貧困が存在するのは、貧しい人々の能力の不足のためではなく、むしろこれらの知性の失敗のためなのである。

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