【書評】唯脳論[ヒトが人である所以]

【書評】唯脳論[ヒトが人である所以]
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どうもタスです。

本書は、解剖学的知見から「ヒトの活動を、脳と呼ばれる器官の法則性という観点から、全般的に眺めようとする立場を、唯脳論と呼ぼう。」とする一種の学問ともいうべき理論を提唱している。本書を読むにあたり、いずれの本もそうだけれど、本書に限って言えば理解に差が出る難書だと言える。

そこで今回は、読書習慣を始めて40冊目の本になった「唯脳論(ちくま学芸文庫)」についてお伝えする。

 

著者のご紹介

養老 孟司(ようろう たけし)
1932年、神奈川県鎌倉市生まれ。1962年、東京大学医学部卒業。卒業後解剖学教室に入り、その後東京大学大学医学部教授。1995年、退官。東京大学名誉教授。北里大学教育センター教授、大正大学客員教授を務めた。

 

目次

はじめに
唯脳論とはなにか
心身論と唯脳論
「もの」としての脳
計算機という脳の進化
位置を知る
脳は脳のことしか知らない
デカルト・意識・睡眠
意識の役割
言語の発生
言語の周辺
時間
運動と目的論
脳と体 エピローグ

 

本書は専門家でも誤解してしまう難書

【書評】唯脳論[ヒトが人である所以]

まず初めに言っておきたいのは、本書は文庫版を買うべきだということ。そして、解説から読むべきである。解説は、テレビ「ホンマでっか?!TV」に出演されている(ここ数年見ていないから今も出演されているのかは分かりません。。)澤口 俊之氏。解説には以下の記述がある。

私は本書を読んだ当初、まったくもって不明にも、「世界は脳だ!」と主張していると誤解をしてしまった。

これは、澤口氏の場合、脳科学者としての観点・バックグラウンドから本書を読んでしまったことに原因があると言っているが、私もそのように理解していた。今を生きる現代はそのほとんど全てが人工物に囲まれている。その人工物はヒトが作り出したもの。いわば脳が作り出したものなのである。だから、世界は脳が作ったも同然だと理解した。しかし、そうではないことは、以下の記述に違和感を感じたことからも分かった。

唯脳論は、世界を脳の産物だとするものではない。前章で述べたように、意識的活動が脳の産物だという、当たり前のことを述べているだけである。
どう考えたって、素直に言えば、脳は世界の産物であり、哲学は脳の産物である。脳は哲学よりも広く、世界は脳より広い。 

確かに至極単純である。が、唯脳論の主張からするに誤解をしてしまった。澤口氏の専門は、脳科学という解剖学とは異なる分野ではあるが、脳という研究対象は同一である。そのスペシャリストであるにもかかわらず、誤解するほど本書は難しく奥が深い。もちろん、私のような浅学には理解しがたいのである。

そのため、本書はまずは「はじめに」及び「解説」から読み始め、その後に本書を読み切るくらいで良いと思う。そして、可能であれば今後複数回を読了して理解を深めることで楽しめるのではないかと思う。

 

脳の仕組みは面白い

【書評】唯脳論[ヒトが人である所以]

脳の法則性から人の活動を見る場合、脳の仕組みを知ることは重要である。本書は、解剖学者の視点から(というにはあまりにも色々知り過ぎていて分野を特定することがおこがましいが)脳と体の仕組みを知れてとても勉強になった。上げたらキリがないがいくつか列挙してみる。

  • 脳の栄養素は糖と酸素である。
  • 脳が死んでも結合組織は生きている(頭皮等)。
  • 脳の神経細胞の作りは複雑ではない。
  • 中枢神経(脳と脊髄)の境は延髄。ただし、規定はなく、動物によっては境が無いものもある(全脊髄)。
  • 末梢神経と脳神経細胞は一対一の関係で構成されている。
  • 細胞は一度対応関係を持つと記憶する。よって、幻肢が起こる。
  • 末梢神経が退化すると、そこから刺激を受けていた神経細胞系が次に退化する。その結果、そこと対応していた中枢神経も退化する。
  • 中枢神経は末梢神経の奴隷である。

さらに、これは(本書の内容と)私の見解でもあるが、とても興味深いこととして以下のことも学んだ。

  • 計算機は私達の脳の最新部分のさらなる延長のため、原始的ではない。
  • 物差しのような簡単な器具が売れるのも上記の理由。視覚は物を計れない。比例で見ているだけ。
  • 数は後天的な教育によるもの。
  • 脳は脳のことを知っている。数学はそれを言語で表出する。
  • より多くの脳内過程を含む頭ほど、多くのことを理解する。
  • 人間の脳が大きくなったのは、意識が脳の自慰行為によって生まれたため(神経細胞維持のため)。
  • 目的意識から反復練習の重要性も理解できる。

これだけ学べただけでもとても面白いと感じた。そこから一歩踏み込んで本書は唯脳論を展開する。

 

人間の強みとAIの支援関係

【書評】唯脳論[ヒトが人である所以]

脳は人間の臓器であるが他の臓器と一線を画すこととして「意識」と持てることが挙げられる。これは肺が呼吸をする、心臓が酸素を供給すると同様に脳の機能である。意識は人間の組織で唯一自分自身のことを考えることができる。そして、その考えを運動系(話す、書く)をとおして外界に表出することが可能である。

これは人間にしかできないことで、感情もその一種である。何の変哲もないことのように思えるが、理解の難易度は高い。AIを人間の脳に見立てる考えを聞くこともあるが、こう考えると全く異なる性質だということが分かる。AIは計算機の延長である。人間の不得意とする部分を補うための技術なのである。

よって、AIに仕事を取って代わられるからもう逃げることができないと思っている人は、脳の仕組みを知ることで人間の強みをもっと知るべきである。本書を読むと如何に人間の脳は高次な機能を有しているかが理解できる。特に、視覚と聴覚、時間の感覚を脳内で統御している理論は非常に面白い。

AIへの不安や恐怖に漠然と怯えていないで、脳の高次機能を知ることで将来を楽観するくらいの気持ちでいたい。近未来にロボコップのような人間型ロボットが作られるのだろうか。本書を読む限り簡単にそういきそうにもない気がする。

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