【書評】完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者

【書評】完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者
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どうもタスです。

「この世の中に天才はいると思いますか?」そう質問されたらどう答えるだろうか?私も答えに窮するうちの一人なのだけれど、本書を読んで改めて認識した。Yesであると。本書は生存している天才数学者の生涯(生存しているけれど)を、本人以外からの情報だけを頼りに描いている他に類を見ない興味深い物語である。

そこで今回は、読書習慣を始めて108冊目の本となった『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者(文春新書)』を読了したのでお伝えする。

 

著者のご紹介(本書引用)

マーシャ・ガッセン(Masha Gessen)
1967年、モスクワ生まれ。ペレルマンと同様、ユダヤ人に生まれ数学専門学校に学ぶ。ソ連のユダヤ人差別から逃れ家族とともに1981年アメリカ移住。ソ連崩壊後ロシアに戻りジャーナリストとして活躍している。

青木 薫(あおき かおる):訳者
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒、同大学院修了。理学博士。主な訳書にサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』『暗号解読』など。専門の理論物理学から、数学、分子生物学、科学哲学までポピュラー・サイエンスの翻訳を幅広く手掛け、ファンも多い。

 

目次

序章 世紀の難問を解いた男
第1章 パラレルワールドへの招待
第2章 創造への跳躍
第3章 天才を育てた魔法使い
第4章 数学の天使
第5章 満点
第6章 幾何学の道に
第7章 世界へ
第8章 アメリカでの研究
第9章 その問題、ポアンカレ予想
第10章 証明現る
第11章 憤怒
第12章 完全なる証明
著者あとがき
ソースノート
補遺1 コルモゴロフの四つ穴ボタン問題の解答
補遺2 ケーニヒスベルクの橋の問題の証明
訳者あとがき
文庫版のための訳者補記
解説 福岡伸一

 

旧ソ連の時代背景が物語の起源となる

【書評】完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者

漫画の主人公のような、絵に書いたような天才。そして、その天才を取り巻くストーリー。本書を読んだ感想はまさにその通りだ。

本書は、主人公であるグリゴーリー・ペレルマンの生涯を描き出す、伝記と言える内容になっている。なぜペレルマンが取り上げられているのか。それは、彼が数学界の世紀の難問、ポアンカレ予想を証明したことと、それを取り巻く様々な要因が物語を面白くしているからだ。

訳者あとがきに、本書の面白さを以下のように簡潔に表している。

ポアンカレ予想とその証明については、本書以前にも、『ポアンカレ予想を説いた数学者』、『ポアンカレ予想 正規の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者』などの一般向け書籍が刊行されている。それら先行書籍と本書との最大の違いは、これまでの書籍では、ポアンカレ予想とその証明に焦点が合わせられていたのに対し、本書は、ペレルマンという数学者そのものに焦点を合わせた初めての本だということだ。

また、日本版とアメリカ版はほぼ同時に発売されたが、両者にはいくつかの違いがあるそうだ。

アメリカ版では、著者自身のソ連での体験は後半部に目立たない形でチラリと出てくるだけで、ソ連の数学界について著述した箇所も大幅に削られている。(省略)日本版では、著者の出自と、旧ソ連での原体験がまず第1章で語られ、そこから、旧ソ連社会でユダヤ人として生きるというのはどういうことであったか、そのなかで、数学専門学校という奇跡のようなオアシスがいかに存在しえたかが、読者に知らされる。数学の独自の発展を支えたそのオアシスの自由な空気と、そこで外界から守られながら才能を開花させていくペレルマンの成長過程が綴られていくという形になっている。

このソ連の数学界の事情そのものがとても重要で、それを理解しなければこの物語の面白さは半減どころか、まったくもって失われてしまうといっても過言ではない。

 

数学専門学校だけがオアシスであった当時

【書評】完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者

旧ソ連におけるユダヤ人の扱いの酷さから、共産主義的な超独裁体制が印象強い。そんな中、第二次世界大戦時にドイツに侵略されたことを契機に、数学者に光が当たる。

空軍の飛行機が壊滅状態に陥り、民間機を改造しなければならない状態にまで追い込まれる。民間機は戦闘機より速度が遅いため、爆撃にかかるそれまでの知識が無用になったのである。そこで招集されたのが数学者たちという流れだ。粛清により一つの学問すら消される当時の中、生き残れたのは幸運であった。

しかし、戦後もソ連の息苦しさは変わらない。そんな描写がまざまざと体感できる。「停滞の時代」であり、空虚感、失望感だけが漂う世界である。子供たちは、成績が良くてもダメ、悪くてもダメ。皆平等、誤った共産主義の慣れの果てである。

その中で、数学専門学校だけがオアシスだったのである。出来たらできただけ認められた世界。著者も数学専門学校の体験者である。当時、スカウトの目に留まった時の情景を以下のように表している。

私はかすかに胸が高鳴るのを感じた。心地よい興奮が肩のあたりまで広がっていく。それが希望というものの感触だった。

 

ペレルマンの面白さを完全証明した本書

【書評】完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者

ポアンカレ予想は1904年にアンリ・ポアンカレによる一つの論文から始まった。本書でも第9章で噛み砕いて説明してくれるのだが、正直、それでも理解できない。ボンヤリでも理解するにはもう少し時間がかかりそうだけれど、ペレルマンの偉業を理解するには時間はかからない。

約1世紀もの間、数々の数学者が取り組み挫折した難問をペレルマンは7年で完全証明したのだから。

また、物語を面白くさせる要因は、ペレルマン本人の人格にもあるだろう。人格の源泉は生い立ち、まさに前述した時代背景から、各時代フェーズで出会った恩師の影響も強く関係しているのは確かだろうが、ここまで信念を堅持した人もそうそう見れるものではない。

あくまでリミッターが外れた天才だから許されることなのだろうけれど、この外れ具合が漫画に登場するキャラクターと被る所以なのである。

数学界のノーベル賞とも言われるフィールズ賞に選ばれたのに辞退するだろうか?クレイ研究所が設けたミレニアム問題を証明したにもかかわらず、100万ドルの賞金の受け取りを辞退するだろうか?種々の名門大学のポスト(ハーバード、MIT、プリンストン等)にヘッドハンターされても、ことごとく断るだろうか?

ペレルマンはこの全てにYesを投げつけたのである。

この物語の独特の雰囲気を体感すると、読了後数日経っても頭の、というより、心のどこかにペレルマンがいるような気がしている。憧れともいうのか、尊敬ともいうのか、可能であればなりたいし、けれどなりたくもないし。

こうも意識してしまう生きる伝説、偉人の物語を読めるのは幸せなことである。ありがとうございます、マーシャ・ガッセンさん、そして、青木薫さん。ということで、またいつか再読しようと思う。

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