【書評】経済物理学の発見[物理法則で経済を暴く]

【書評】経済物理学の発見[物理法則で経済を暴く]
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どうもタスです。

経済に関する本を読んでいると「需要と供給が均衡して安定する」というような基本中の基本的な内容が至る所に書かれている。確かに、考えれば至極当たり前のことのように思えるが、経済界に物理学が乗り込んできたとあればその定石も打ち砕かれることになる。

そこで今回は、経済物理学の第一人者が上梓した「経済物理学[エコノフィジックス]の発見(光文社)」について、読書習慣を始めて35冊目の本としてお伝えしたい。

 

著者のご紹介

高安 秀樹(たかやす ひでき)
1958年千葉県生まれ、1985年、名古屋大学大学院理学研究科修了。理学博士。神戸大学理学部地球科学科助手・助教授を経て、1993年、東北大学大学院情報科学研究科教授に就任。1997年より、(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。専門は、フラクタル理論、統計物理学、エコノフィジックス。本書にも登場しますが、奥様(高安 美佐子)も物理学者。

 

目次

1章 エコノフィジックスの誕生
2章 エコノフィジックスのツール
3章 市場原理
4章 市場の臨界的性質
5章 所得の変動と分布
6章 お金の特性
7章 企業通貨システム
8章 今後の展望

 

好奇心・探究心旺盛な著者

【書評】経済物理学の発見[物理法則で経済を暴く]

先ず、著者の経済物理学との出会いと研究に対する意思決断が素晴らしい。物理学一筋だった著者はフラクタル理論に出会うことになり、そして、研究を進める中で市場経済にフラクタル理論が適用されることを知り、経済物理学に傾倒するようになる。当時、物理学会で認められた学問ではないのにもかかわらずである。

戦略的に挑戦した結果、物理学会にも認められ、且つ新たに経済物理学という学問領域も開拓した。しかし、まだ試練は終わらなく、大学改革のために委員会やら会議やらで膨大に時間を取られことになる。特に著者は当時教授で、出席が求められる会議が3つも重なることもしばしばあったというのだ。そこで、貴重な時間資源を守るべく大学を退職し、研究テーマや時間の使い方が完全自由の民間に異動したのである。ただし、転職先は民間で一年毎の契約更新という安定した環境から不安定な環境への異動とのことだった。

著者曰く、

結果的には、CSLに移り、研究に専念することで、誰も見たことのないわくわくするような未知な世界の探検を存分に楽しむことができたのです。

権威、名声、安定等のどれよりも研究(いや、探検)を選んだというのは、自分ができることで自分の好きなこと、そして、世界に貢献できることに邁進できるとても恵まれた方なのだと感じたとともに、研究への意志の強さが感じられた。

 

経済物理学の登場とその意義

【書評】経済物理学の発見[物理法則で経済を暴く]

これまで経済学を支えて来た理論のかなりの部分が実証的な根拠のない空論だったことが明らかになってきています。

経済学が、科学になりきれないのは、観測事実を最優先して素直にあるがままを認めるような体質が欠けているからだと思います。

テレビの経済番組などではエコノミストが、株価の上昇や下降、為替レートの変動にいろいろと理由を付けていますが、そのほとんどは後付の説明です。実際には、いろいろな考え方の中で微妙にバランスが崩れてゆらぎが発生し、それがたまたま増幅されて大きな変動になるわけですから、日々の市場の変動にいちいち合理的な理由を付けようということ自体がそもそも無理なのです。

のように、経済学というのは「定性的」な論理がほとんどを占める。経済学の本を読んでも、歴史的観点から、観測的観点から、経験則からというように、いずれも以下のような視点が欠如している。

これまでの経済学のアプローチと比較した時、物理学者の研究で、最も大きな特徴は、詳細な現実のデータを物理学の手法を用いて詳しく分析し、実証的に本当に起こっている経済現象を解明する点にあります。

このように「定量的」視点が無かったからこそ、予測不可能度合が強く感じられたし、根拠が浮ついた内容に聞こえるのではないかと思う。そんな科学的視点が、経済の中から発見されたというのも皮肉に感じる。しかし、その視点こそが経済の自由市場を分析、解析する手段となり、本質が徐々に明らかになってきたというのは面白い。つまり、金融工学の問題点を補うための学問として経済物理学が誕生したのである。

 

複雑系を紐解く物理法則の数々

【書評】経済物理学の発見[物理法則で経済を暴く]

前回読了した『地球温暖化の予測は「正しい」か?』に出てきた気候現象と同様、複雑系といわれる現象には共通するものがあるようだ。本書の研究対象である金融の自由市場である為替市場は、「くりこみ理論」によりミクロな現象をマクロな現象に組み込んで説明がつくそうだ。それは以下の説明からも理解できる。

小さなスケールで無数に繰り返される複雑な反応を、大きなスケールから粗くひとまとめにしたらどう見えるか、という一般的な問題を考えました。大きなスケールで粗く観測することをくりこみ変換とよびますが、これがわかれば、ミクロなダイナミックスから理論的にくりこみの操作を繰り返すだけで、マクロな量を満たす方程式が理論的に導かれることになります。

気候モデルもミクロな問題を解析するためには、理論面からもマシンスペック面からも困難極まるものなので、このくりこみ理論を応用して作成した。それと同様に市場経済の変動も、ミクロな市場価格の変動(為替の売買)からマクロな価格変動(インフレ等)を導くことに繋がるのである。

また、本書の至る所で登場するべき分布はとても勉強になった。市場価格は、上位5%の大きな変動だけで全体的な動きの特徴を示せることが分かったのである。これは本書の3章のガラスのコップを割った現象から説明されると非常に分かり易い。ガラスのコップを割ると、大きな破片、中くらいの破片、小さな破片に粉砕される。さらに、目に見えないような破片の数はさらに多くて、顕微鏡で拡大してみても同じような分布で破片が観察される。しかし、大きな破片だけを寄せ集めただけで、大体元の原型が推定できてしまうのだ。これが左記に話した、上位5%の大きな変動だけで全体的な動きの特徴を示せる根拠になる。

 

ゆるぎない科学の力

【書評】経済物理学の発見[物理法則で経済を暴く]

上記のように、科学理論のツールを用いて経済を紐解くとこれらの新事実が次々と発見されているのだ。しかも、まだ発展途上の学問ということで、今後も期待大である。結局、定性と定量であれば、ゆるぎない事実を実証できる分だけ定量に勝るものはない。この「ゆるぎない」という部分が最も大事な要素なのだと思う。

根拠のない説明に納得できないのもそう言った理由であろう。定量をインチキ論理に据えて話す専門家気取りもいるので騙されてはいけないが、それすらもゆるぎない実証を基に暴けてしまうところが科学の魅力なのだと思うし、今後も経済等のように科学が未踏の地へ次々と進出することでより明るい未来が来ることは想像に難くない。

いつかの「2位じゃダメなんでしょうか?」事件もあったように、科学の進歩は日本に留まらず世界の未来にとても重要な位置づけであることは重々に理解できた。本書では、物理経済学の歴史や最新動向だけでなく、物理経済学の結果を基にした新しい通貨システムの提言も行っている。

日本再興戦略でも語られていたように、貨幣システムは中央集権である必要は無い。むしろ、企業通貨システムがあっても良いのだ。それは紙幣や貨幣という物理的な流通ではなく、既にそうではあるが、電子通貨を用いて為替の混乱を吸収するような環境が出来上がっても良いのだ。そのシステムの詳細は本書にお任せするとして、現在では日本も遅ればせながらペイペイ等のように電子マネーが消費者個人にも流通していることから、実際にその方向に進んでいると見ていいのだろう。

 

おわりに

経済現象がここまで物理法則で分析・解析して説明できることに驚いた。為替市場を皮切りに、インフレ、企業所得、日本経済、投資、個人所得、金利、地域通貨、電子通貨、ゆらぎビジネス、研究開発、環境問題と経済に関する様々な要素を概観できたのはとても面白い。

近年の日本はデフレ気味なので、人為的にインフレを起こした方がいいと言う人もいますが、これは、現実に起こったことを考慮していない全く無謀な考えです。

こんな結論まで導く経済物理学、今後の発展を大いに期待したいとともに、新しいことが発見されるワクワク感を私も共有したいと思う。

 

類書


本書と同様、経済学の常識を物理学の視点から切り込む。

 


物理学や心理学から投資行動の本質に迫る。

 


感情、直感、記憶など、心のはたらきを重視し、私たちの現実により即した経済学を再構築しようとする新しい学問「行動経済学」の基礎を解説。

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