【書評】マリス博士の奇想天外な人生[飄々とした人生は憧憬の的]

【書評】マリス博士の奇想天外な人生[飄々とした人生は憧憬の的]
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どうもタスです。

現在のコロナ禍で注目を浴びているのはワクチンだけれど、ワクチンが開発され普及される前は「PCR検査」が注目されていた。理由は、PCR検査を行うことで新型コロナウイルスに感染しているかどうかがある程度信憑性のある形で判明するからである。

そのPCR検査の生みの親こそ、今回読んだ本の主役である「キャリー・マリス」である。そこで今回は、読書習慣を始めて125冊目の本となった『マリス博士の奇想天外な人生(早川書房)』を読了したのでお伝えする。

 

著者のご紹介(本書引用)

キャリー・マリス(Kary Mullis)
1944年ノース・カロライナ州生まれ。幼い頃に科学の楽しさに目覚め、寛大な母のもと、さまざまなアブない実験を繰り返す。ジョージア工科大学卒業後に就職したシータス社の研究者時代に、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を発明。この業績が認められ、1993年にノーベル化学賞を受賞。無類の女性好きやサーフィン狂としても有名で、各メディアで話題になる。現在は四人目の妻ナンシーとカルフォルニア州に在住。

福岡 伸一(ふくおか しんいち):訳者
1959年生 京都大学卒 ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授を経て、青山学院大学教授。著書に『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』『世界は分けてもわからない』ほか。訳書に『虹の解体』ドーキンス(早川書房刊)など多数。

 

目次

1 デートの途中でひらめいた!
2 ノーベル賞をとる
3 実験室は私の遊び場
4 O・J・シンプソン裁判に巻き込まれる
5 等身大の科学を
6 テレパシーの使い方
7 私のLSD体験
8 私の超常体験
9 アボガドロ数なんていらない
10 初の論文が≪ネイチャー≫に載る
11 科学をかたる人々
12 恐怖の毒グモとの戦い
13 未知との遭遇
14 一万日目の誕生日
15 私は山羊座
16 健康狂騒曲
17 クスリが開く明るい未来
18 エイズの真相
19 マリス博士の公演を阻止せよ
20 人間機械論
21 私はプロの科学者
22 不安症の時代に
謝辞
訳者による著者インタビュー
訳者あとがき

 

「自由」人科学者キャリー・マリス

【書評】マリス博士の奇想天外な人生[飄々とした人生は憧憬の的]

この方を知ったのは、訳者である福岡伸一氏の「生物と無生物のあいだ」に書いてあった以下の文章からであった。

キャリー・B・マリスは最初から、研究者を縛るこの幻想から自由でありえた、言葉の本当の意味で自由な人だった。彼はポスドクを渡り歩きながら、ある時はファーストフードの店員であったり、小説を書いたりしたこともあった。私は数回にわたって、マリスに彼のカリフォルニアの自宅で話を聞き、のちに、彼の自伝”Dancing Naked in the Mind Field”を翻訳する幸運を得た。(P94)

そう、まさに「彼の自伝」を福岡伸一氏が翻訳したのが本書なのである。引用文をとって見ても自由な雰囲気は十分に伝わってくる。まず、サーファーであり、ファーストフードの店員をしていたり、無類の女性好きであったりする。表紙はサーファー以外の何物でもない。

PCR検査が閃いたのも、彼女とデートでドライブ中の出来事だったのである。さらに驚くのは、当時、LSDを服用したことを微塵も隠さないこと、ホワイトハウスを訪れた際に当時の大統領であるクリントンにマリファナ吸引を聞こうとしたこと、日本国際賞の授賞式で上皇合美智子陛下との会話がとても興味深いこと。等々、その行動がまさに自由であることは本書を読むとさらに理解できる(本書では思いっきり浮気していることがサラッと普通に書かれている)。

 

科学者としての科学への向き合い方

【書評】マリス博士の奇想天外な人生[飄々とした人生は憧憬の的]

しかし、忘れてはならない(というより、忘れられない)のは、科学者であるということである。キャリー・マリスはPCRの開発により1993年にノーベル化学賞を受賞している。本書でも、幼いころから危険な化学実験を家の車庫や倉庫で行っていたことや、エイズの真相や人間機械論への言及など、鋭い見解を示している。

本書は科学書ではない。と断言するのもなんだが、小難しい話が出てくるわけではなく、まさに自伝なのである。科学者が書いた本のためか、内容も理路整然としていて読みやすく、とても面白い。次が気になって閉じるに閉じれない本なのである。

科学のあり方についてはストイックに追及している。少々長いが、以下、裁判の科学鑑定(DNA鑑定含む)に対する見解を引用する。

身のまわりのどんなことについても本来言えることなのだが、ひとたび勘どころを押さえることができれば、何事も基本は単純なものなのである。科学も例外ではない。パズルを解けばよいのである。パズルを解くためには、まずしばらくの間、じっくり観察して、それにまつわるすべての手がかりを集めることである。それから推論を始める。そしてある仮説をはじき出す。次に、その仮説に反論できるかどうか試してみるのだ。その解答と矛盾する事実がないかどうか考えてみるのだ。もし、何か矛盾点がみつかれば、次の仮説を考える。これを繰り返すだけである。この世の中の事件はまさに難解なパズルと言える。いくつかの要素はお互いにつじつまがあっているように見える。しかし、調べてみると、要素のうちのいくつかは事実でないと分かったりする。ある仮説が正解のように思えても、少し時間がたつとそうでなくなることも多い。もし、すべての事実をあますことなく説明し、矛盾もなく、無理をしなくとも互いの事実のつじつまが合うような仮説であれば、それがおそらく正解だろう。新しい事実が見つかっても、ちゃんとこれまでの文脈におさめることができる、そんな仮説である。最初の基本となる事実を正確に知ることができるなら、それだけ正解に近い仮説を得る可能性が高い。そのような仮説を暫定的に掲げて、新しい事実が出てくるのを待つのである。さもないと落とし穴にはまってしまう。(P87)

また、それ故にエイズや地球温暖化への言及は科学の闇を映し出す。本来、科学というものは科学によってのみ証明される。よって、証明されなければ、それなりの対応をとらなければならない。つまり、あくまで「仮説」であるということである。

前述の科学のあり方の一つをとっても、「無理をしなくとも互いの事実のつじつまが合うような仮説」でなければ正解とは言えず、無理をしてしまってはすぐにボロが出る。そのボロを隠そうとしても、キャリー・マリスのように気付く科学者がいるわけだ。何より、隠す裏には隠すだけの何かがあるに違いない。

そういう意味では、地球温暖化について「地球と一緒に頭も冷やせ!」も合わせて読んでみることをおススメする。

 

おわりに

本書は、科学のシリアスな面と著者のお茶目で愛らしい面が同居することで、ちょうど良く中和された良書である。これに福岡伸一氏のインタビューとあとがきが加わり、さらに魅力が増す。「実践!多読術」を筆頭に、各所で勧められている理由が十分理解できる。

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