【書評】縛られた巨人 南方熊楠の生涯[偉人の実像が見れる幸せ]

【書評】縛られた巨人 南方熊楠の生涯[偉人の実像が見れる幸せ]
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どうもタスです。

今回はあまり読んだことが無かった伝記ものである。主人公は南方熊楠で、本人の生涯を約500ページに渡り綴っている。驚異的な記憶力からあらゆる学問の知識を持つといわれた偉人の生涯は時間を作ってでも堪能するべきである。

そこで今回は、読書習慣を始めて106冊目の本となった『縛られた巨人 南方熊楠の生涯(新潮文庫)』を読了したのでお伝えする。

 

著者のご紹介(本書引用)

神坂 次郎(こうさか じろう)
1927(昭和2)年、和歌山市生れ。’82年『黒潮の岸辺』で日本文芸大賞、’87年『縛られた巨人–南方熊楠の生涯–』で大衆文学研究賞を受賞。’92(平成4)年には、皇太子殿下に自著『熊野御幸』を二時間半にわたって御進講した。2002年南方熊楠賞、’03年長谷川伸賞を受賞。他の著書に『元禄御畳奉行の日記』『今日われ生きてあり』『海の稲妻』『海の伽那(「にんべんに那」が正しい)琴』など。

 

目次

神童クマグス
天下の男といわれたい
わがおもうことは涯なし
フロリダ泥沙の中に埋もるや
馬小屋の哲人
Ros Marの謎
さらば孫文
龍動水滸伝
リバプールふたたび
孫文の白いヘルメット
熊野蒙昧の天地
わが頭抜け出て那智の山中を飛ぶ
われに恋慕の想いあり
帰りなんいざ
小生いまだ女を知らざりしなり
稲八金天大明権現王子の出現
予、警察署長を蛙の如く投げ
人魚の裁判
われゲスネルのごとく
人の交わりにも季節あり
蚤をとるか天下をとるか
時空のミケトゾア
雨にけぶる神島を見て
〔あとがき〕熊楠への旅のおわりに
〔対談〕人間・南方熊楠に迫る(北 杜夫/神坂次郎)

 

驚異的な学力と行動力の持ち主

【書評】縛られた巨人 南方熊楠の生涯[偉人の実像が見れる幸せ]

お恥ずかしながら、南方熊楠という人物を知らなかった。学問というのは、現在では細分化されており、学者といえども自分の専門外の知識は持ち合わせていないのが普通である。しかしながら、その常識を打ち破った偉人が南方熊楠だ。

そもそも18か国語を扱えるとか、これだけでもちょっと尋常ではない。何リンガルなのだろう。婚約者の父へしたためた手紙も英語、ドイツ語、フランス語、ラテン語と長大な手紙を送っている。真面目な父は、それを辞書片手に読んでみるが、三日目に片頭痛を起こして寝込んだそうだ。

学問の中でも特に熱心に研究したのが生物学である。これについては以下を引用することで説明したい。

熊楠の死後、書斎に並んだ土蔵の二階の大長持の中から整然と納められたおびただしい菌類標本、図譜が発見された。菌類図譜四千五百種、その他にアメリカ産菌類の標本千三百八十三種、イギリス産藻類百五十種、日本産の菌、地衣、蘚苔、藻類、無数…。発見された菌類標本はいずれも洋紙にペン書き英文で、諸々の観察や生態、成長を写生彩色し、分類学上最も重要な目安になるべき胞子は一つ一つ小さな紙袋に入れ、丹念に添付されていた。
それらに他に、一万五千枚にも及ぶ厖大な『日本産菌蕈類(英文解説・彩色写生)図譜稿本』がある。東京遊学の十七歳の熊楠が、極北の磁針とした菌学の父、バークレーの六千点を二倍も超える数である。超えるといえば、日本で発見された粘菌の半数は熊楠が発見したものであり、一つの国で発見された種類では世界最高といわれる二百四十種の標本をも熊楠はつくりあげている。

これだけでも圧倒的なスゴさを感じることができるが、熊楠の学びへのアプローチは、机上に留まらないのも面白い。あまり本を信じていない。というより、理解し難いことは自分の耳目で確認しなければ済まない性なのだ。

さらに、熊楠は当時の(というか今も)教育制度に適応できていない。むしろ、その逆で、教育制度として熊楠を受け入れるような体制にはなっていない。それは今も昔も天才や秀才に教育制度は不足しているのと同じことなのだろう。当時の同級生には、夏目漱石や正岡子規、秋山真之など後世に名を遺す偉人たちが揃っている。

熊楠は東京大学予備門(後の東大)を中退し、単身渡米している。その後、世界各国を放浪するのだが、イギリスではかの有名なネイチャーに論文を発表し、掲載されとても有名になっている。日本よりも世界的に有名だったというのだから大変驚く。

 

著者の渾身による熊楠の実像

【書評】縛られた巨人 南方熊楠の生涯[偉人の実像が見れる幸せ]

南方熊楠を伝える伝記は多数あるようだが、そのどれもが実像とはかけ離れているようだ。

熊楠の行動の軌跡を、かれが新聞や雑誌に発表した論文や随筆、おびただしい書簡や日記から辿っていくのは容易なことではない。もともと熊楠という人物は、生前から奇行や虚譚の類だけが喧伝され、それが歳月とともに伝説化し、偶像化されてきている。

それは孫引きが主な原因であると著者は言っており、本人はあしかけ三年の月日を費やして本書をまとめたそうだ。もちろん、娘さんにも取材している。その詳細さは本書を手に取ると理解できるだろう。

本書の面白さは、今まで述べてきたような熊楠の超人的な頭脳を目の当たりにできることと、それと表裏一体ともいうべきか、波乱万丈の人生や熊楠の破天荒な人柄、孤独、寂しさなど日の当たらない舞台裏の真実も見れることである。

対談で本人も認めているように、虚像が少しは混じっているようだ。しかし、大量の出典を見ると虚像と実像の区別はつかないくらいとても精巧な作品であると感じる。

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