【書評】国家の罠[友情・信念・タフネス・ストイック]

【書評】国家の罠[友情・信念・タフネス・ストイック]
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どうもタスです。

佐藤優氏は読んでみるべき本として紹介されることが多いので、いつか読んでみようと思っていた。私は、「すぐに稼げる文章術」で紹介されている本を順に手に取る中で本書に出会った。本書がベストセラー本であることも知らずにである。

初めは500ページを超える本の厚さに多少なりとも気圧されながら読み始めたのだが、読み始めてすぐに本書の面白さに惹き込まれた。そこで今回は、読書習慣を始めて88冊目の本として『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて(新潮文庫)』を読了したのでお伝えする。

 

著者のご紹介(本書引用)

佐藤 優(さとう まさる)
1960年(昭和35)年生まれ。’85年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英日本国大使館、ロシア連邦日本国大使館などを経て、’95(平成7)年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年5月、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。’05年2月執行猶予付き有罪判決を受け、現在上告中。

 

目次

序章 「わが家」にて
第一章 逮捕前夜
第二章 田中真紀子と鈴木宗男の戦い
第三章 作られた疑惑
第四章 「国策捜査」開始
第五章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
第六章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
あとがき
文庫版あとがき
解説 川上弘美

 

佐藤優と外交官と情報屋

【書評】国家の罠[友情・信念・タフネス・ストイック]

本書の面白さは、川上弘美氏の解説のとおり、内容が克明で且つ理路整然とロジカルに語られていることにある。著者は「太平記」を参考にしたと言っている(私は読んだことはない…)。時系列に事細かに言動や情景が書かれており、まさに当時、その場に居合わせているかのような感覚に陥る。

本事件を知らない者でも、外交とはどういうことなのか、情報専門家とはどういうものなのか、政治と為政者、行政と官僚、検察と裁判官、そして、国策捜査とはどういうことなのかが順を追って体に憑依するかのように入ってくる。

著者は、とにかく自らの思索を整理・分析し、組み立て上げる能力が高い。だからこそ、本書のような難問を第三者に伝えることができるのだろう。しかも、タフネス過ぎるがゆえ、拘留中にも冷静沈着に思索し続けた。そのメモを取り続け、残したからこそ本書が出来上がったのである。

また、そのタフネスさが異常である。著者はロシアで主に外交していたのだが、そこで目に付くのはロシア人の酒の強さだ。ウオトカ2~3本を空けるのようなフレーズが頻繁に出てくるのである。著者も酒は好きなようだし、実際に強い。けれど、それでも以下のような対応をしても仕事に従事する姿は印象的だった。

私を除く外務省関係者は、通訳を含め全員が酔いつぶれ、中途で退散する羽目となった。残ったエリザリエフ氏、鈴木氏、私の三人でひたすら乾杯を繰り返す。ロシア流で鈴木氏に注がれたウオトカは私が飲むのであるが、私もそろそろ限界だったので、ときどき中座し、大量に水を飲んでは手洗いで吐き、極力アルコールが身体に残らないように用心することも忘れなかった。

そして、何が最も驚愕なのかと言うと、私欲・保身等は微塵も持たず、全ての言動は「国益」のために行っていることだ。著者が思考し決断するために最もウエイトを置く指針は「国益」なのである。

もう、なぜ?なんでこんな人が国策捜査で引っ張られるの?運で片付けるなら神なんていないのでは?ちゃんと誰かが見ているって肯定的な意味合いの言葉ではないの?なんて、何度思ったことか。

長々と著者について語ってきたが、本書の内容はタイトル通り「国策捜査」という文字通り「国家の罠」に嵌められた著者自身の経緯と全貌が語られる。本書を読んでいると、映画「24 TWENTY FOUR」(私は見たことが無いが)の、あの時間が刻々と進んで行く演出が脳内再生されるのである。

 

本書に登場する男気溢れる名役者

【書評】国家の罠[友情・信念・タフネス・ストイック]

ロシア外交で「友達」が強い絆を作るための重要なファクターであることに驚いた。それはイスラエルで出会ったゴロテツキー教授などのユダヤ人とて同じであった。本書で何度も表現され、著者が強く頑なに守っている信念の一つがこの「友情」である。

国際的に有名、というか活躍している、というのか、名が知られている人物は義理人情に厚い。少なくとも本書ではそうで、例え、著者が逮捕され、メディアが真偽の定かではない情報を流布したとしても、その関係は壊れることが無い。正直、もっとドライな世界なのかと思っていただけに、衝撃であると同時に、直接私に関係ないとはいえ嬉しくもあった。

また、本書で衝撃的だったのは鈴木宗男氏の卓越した政治・人間力である。私は道産子でありながら鈴木宗男氏の活躍を真に知らなかった。むしろ、メディアに踊らされていたうちの一人であった。特に批判や嫌な思いがあるわけでもないが、良いことをした人ではないのだろうと思っていた。いや、思わされていた。

そんな軽率な思考が恥ずかしくなるくらい、政治の世界、特にロシア外交で活躍していたのだ。むしろ、外務省としても鈴木宗男氏の力を借りなければと懇願する様なのだから(それが翻って外務省は切ってくるのであるが…)。

ここでもう一度、、、なぜ?なんでこんな人が国策捜査で引っ張られるの?運で片付けるなら神なんていないのでは?ちゃんと誰かが見ているって肯定的な意味合いの言葉ではないの?なんて、何度思ったことか。佐藤優氏、鈴木宗男氏、両人ともに国策逮捕後もご活躍されているので嬉しいのだけれど、何とも不条理な世の中よと強く嘆きたい。

 

物語を面白くするヒールたち

【書評】国家の罠[友情・信念・タフネス・ストイック]

本書には素晴らしいヒールの皆様も登場する。筆頭はやはり田中真紀子氏だろう。外務省では、通称「ばあさん」であったのが面白かったのだが、とにかくやることが破天荒。これが良い意味だといいのだけれど、全く逆の破天荒なのである。

田中真紀子氏が来ても来なくても、時代のけじめと言う意味では国策捜査はあったのかもしれないが、少なくとも田中真紀子氏が外務大臣になったおかげで逮捕率が上がってしまったのは言うまでもない。複雑な人間関係が交錯した結果であるとは言えど、大臣権限で嫌いなヤツを次々とっかえひっかえ左遷なんて乱暴にもほどがある。

最後に、本書の裏の主役ともいうべき方が検事であったことが意外であった。その方の名前は、西村尚芳検事である。この方も著者と同じ匂いのする職人気質の人柄で、冷静沈着で洞察力に優れ、整理・分析して物事を進めていく情に厚いタイプの人間だ。検事でありながらもヒールではないのでは?という声が多数聞こえてきそうな男気溢れる紳士である。

外交官から国策捜査まで、あまりに酷い仕打ちだなと感じていたが、西村検事との調室でのやり取りがとても知的な刺激に富んでいて面白かった。決して、そのような状況は面白いとは言ってはいけないが、我が身に照らし合わせ、どういう状況になっても我を忘れず、明確な目的を持ち、それを達成するための道筋をロジカルに検討できる思索力を持ちたいと願った。

国ぐるみの事件なんて自分には関係のないことかもしれないけれど、要所々々では必ず自分の生活に当てはめて考えれることがある。どんな本でも必ず自分にとってプラスな部分は持っているものだと思う。本書は、当てはめる作業が煩雑で苦になるくらいお手本となる要素が十二分に詰まっているが、それを見付けることができるかどうかは自分次第だ。

本書のサブタイトルにもなっているラスプーチンだが、あとがきでの著者の感想が印象的だ。

サブタイトルの『外務省のラスプーチンと呼ばれて』についても私には全く違和感がない。ちなみにラスプーチンについて、日本ではロシア皇室を背後で操り、ロシア帝国を崩壊に導いた「怪僧」というステロタイプが流布されているが、ロシアでは民衆の声を体現した平和主義者だったという見方もある。

もちろん、事実を単純にそう捉えたのであろうが、最後まで前向きで強靭な著者の精神に羨望するばかりである。

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