![【書評】ウチのシステムはなぜ使えない[システムに関わる全ての人に必読の書]](https://tasulife-23.com/wp-content/uploads/2020/01/00-2.jpg)
どうもタスです。
新書のカバーや書名及び副題からは想像もつかないくらい、内容に笑わせてもらった本は初めてです。多分に笑いがあるのですが、これぞシステム化のパラドックスと言いましょうか、真面目に頑張れば頑張るほど痛い目を見ることもあり得てしまうという摩訶不思議な業界でして、何回ツボに入ったか分かりません(笑)
今回は読書習慣を始めて26冊目の本になった「ウチのシステムはなぜ使えない SEとユーザの失敗学(光文社新書)」について感想をお伝えしたいと思います。
著者のご紹介
岡嶋 裕史(おかじま ゆうし)
1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務を経て、現在、関東学院大学経済学部経営学科情報部門・関東学院大学大学院経済学研究科准教授。
著者は、情報処理技術者試験に合格するための3つのステップ【IT資格取得者必見】でもお伝えしたとおり、私は資格試験勉強時にお世話になった方で、著者自身も本書で資格マニアと公言しています(とても参考になる教科書でした、ありがとうございました)。
目次
第一部 SEという人々
第二部 SEと仕事をするということ
第三部 ユーザとSEの胸のうち
本書の主張する本質的なところ
冒頭でもお話ししたとおり、とにかく笑える。表現がコミカルで、極端で、それでいて常に悲観的である。これではSIer及びそれを含むIT業界はどれだけ偏っているんだ(腐っているんだ)と思えなくもないほど、読みながら憂いてしまった。ただし、著者も言っているとおり「ほとんどのSEはまじめに仕事をしている。」であるため、業界を知らずに読んだ読者の方は安心してほしい。
しかし、とても本質を捉えた内容であることは確かで、実際に私も同感・共感した内容はいくつもあった。内容自体は非現実的ではないのである。本書の目的は以下の疑問を解くことに注力している。
現状における情報システムへの不満というものは、技術を議論するずっと以前の段階に根っこを持っていると思うのだ。要するに、技術者の作りたいものと、顧客の欲しいものが合致していないのである。
ついでに先に答えを言うと以下のとおりであった。
SEとユーザにもっとも足りないものはコミュニケーションである。コミュニケーションの努力が不足しているわけではない。世界標準の策定から個々の担当者の努力まで、両者は相互理解のために相当の対価を支払っている。ただ、前提が悪いと思うのだ。業務現場ではユーザがSEをご用聞きのように見下したり、場合によっては何かの教祖のように崇めてしまったりするケースが多く、ビジネスパートナーとして対等な関係であるという、当たり前であるべき共通認識が希薄なのである。
私もまさにこの通りだと思う。何か構えているようなところを感じることが多々あるが、それはSEと顧客が互いに壁を作っているような気がしており、その答えが本書で余すことなく語られていたので、とても面白さを感じたのではないかと思った。
システムの善し悪しを決める最も重要なこと
本書で登場するSE達はとにかくポンコツが多い。本当にこんなレベルのSEがいるのかと眉をひそめるが、「技術に捉われ過ぎて改題解決の目的と手段が入れ替わっている」技術者を多数見てきたことを考えると意外にそんなものなのかと共感してしまった(特に、自分の役割を超えてアーティストになってしまった人はいる)。要は、
顧客が望んでいるのは、素晴らしい技術を使ったシステムではなく、仕事に役立つシステムである。システムを構成する技術が最先端か、枯れているかは、関係ない。
一方で、顧客側(これはSEから見た顧客なのでユーザのこと)は手に取るように理解できて、読みながらも何度もウンウンと頷いてしまった。こちらもSEに引けを取らず「IT化を行いたいという手段が目的になっている」場面を幾度も見てきた。結局、課題解決を行うためにはIT化は必須ではなく、業務効率化をすれば良いだけの話も多々あるのである。
そして何より、顧客とSEが一緒になってシステムを作ることが最も重要であり、本書でも以下のように書かれている。
SEは驚くほど実務を知らないので、まともなシステムを作ってもらおうとするなら、自社業務をきちんと伝えることは必須かつ最重要であると前に述べたが、この法則は自社内SEの場合でも適用できる。
要求定義を作成するにあたって、顧客側で注意しなければならないことは二点に集約される。
・具体的に何をしたいのか提示すること
・提示した条件について社内で意思統一ができていること業績を伸ばしたいのであれば、IT化以前に何かビジョンを決めておかなければならない気がするし、そもそもそれは経営陣が策定する経営戦略である。
この「SEは驚くほど実務を知らないので」という部分がまさにそうで、顧客側は肝に銘じなければならない。具体的に提示しなければ、それこそこの時点でシステムの善し悪しは決まってしまうと言っても過言ではないからである(それでやられているシステムはいくつのあるのか…)。
過去にそんな話をしていた記事があったので、良ければ読んでください(愚痴っぽいかもしれない…!)。
目的を常に意識することで見える課題
そう考えると以下の言葉は言い当て妙で、我々IT業界従事者は常に意識しなければならない。
よく、学部の学生が覚えることは問題解決の方法、修士課程の学生が学ぶことは問題解決の方法を創り出すこと、博士課程の学生が研究することは問題を見つけること、と言われるが、問題を的確に見つけてまとめるのは難易度の高い作業である。それに比べれば、問題を解決すること自体は相対的に難易度が低く、問題が明確になった時点でその問題は半分解決されたようなものである。
何が課題で、それに対してどのように解決するのか。そもそも課題は見えている状態なのか。それが把握できていればプロジェクトで混乱することも無ければ、ユーザ側と険悪になることもない。目的はユーザが抱える課題を解決することなので、それを信念で以って仕事に望みたい。決して以下のように思われないために。
検収が終了すると、SEとの付き合いもそろそろフィナーレである。おそらくプロジェクトの進行中には絞め殺したくなったことも一度や二度ではないであろう。
おわりに
何度も言っているけれど、本書は面白い。要件定義書でこんな指示出すのかよと噴きそうになる例が幾度もあった。
「メニュー画面から、メール送信までマウスを三回クリックするだけでたどり着ける」
この指示では独創性なしにして如何にシステムを作るのかと。本書を読む際は、コミカルに隠れている本質な部分に着目し、システムに関わる全ての人が全ての人にとって幸せになるようなシステムが作れるように意識していきたい(ユートピアみたい)なと感じました。
最後に、私も以下の心構えでフフーンと斜め上を見ながらおわりにしたいと思います。
本書をSEの人が読んだらと思うとぞっとするほどである。そんなことはないと思うが、何かの錯誤で本書を手にしたSEの方がおられた場合、「まあ、こんな奴いるよね。俺は違うけど」といった心構えで読んでいただければ僥倖である。
類書
自信も認める資格マニアで、本資格保有者。合格教本は私もお世話になりました(ネスペは惜しくも不合格だったが)。
ハッカーと分かり易いように書かれていますが、内容は悪行の限りを尽くすクラッカーについて網羅されています。
コンピュータ将棋の発展史が語られています。